ずいぶん前に瀬戸内寂聴さんの講演を聞いたことがあります。
ホールのようなところで、古典芸能についてのお話だったと記憶しています。
20年ほど昔のことかもしれません。
本当に平易なお話が続いて、そこにいた誰もが、自分に話しかけてくれているのかと
思うほどでした。
話の筋道、引用、全てがやさしいのです。
多分、中学生くらいの知識があれば十分に理解できたと思います。
おくのほそ道と言えば、そこでひと呼吸。
祇園精舎の、で息をつき
清少納言の春は、と言って大きくうなずいて
在原業平が八橋を前にカラコロモ、ここでひと呼吸。
聴きながら、誰もが正解に行き着きます。
後ろの席の奥さまがその都度お答えを口に出されていました。
当時、練れていなかった自分は、なぜ、この方がはしゃいでいるのか不思議でした。
もっと専門的なこと、仏教的な考え方など
寂聴さんならではのお話が聞きたかったと物足りなさを感じました。
けれど今になると
これが良くできた講演なのだとわかります。
理解できない話など、誰だって聞きたくないのです。
この人の話を自分はよく理解できたと
拍手で締めて、笑顔で退場していただけたら大成功です。